低山は登山、ハイキング、トレイルランニング、山菜採り、キノコ採り、渓流釣り・・・など「登山が趣味」という人以外の様々な年齢層の人にとって身近な山です。
その分、入山者も多く、年齢層も体力も装備も様々で、実は報道されないだけで遭難がとても多いのも特徴です。
そんな低山での遭難の原因と遭難しない対策をご紹介したいと思います。
山に入って自力で下山できない、下山日が遅れる、これが遭難です。
山以外の場所でちょっとした怪我をしても、それはただの怪我ですし、体調を崩しても、少し休めば回復できるでしょう。
でも山でそのような状態になると、場合によっては命に係わることになりかねません。
そしてその結果、遭難となるのです。そのような遭難の当事者にならないためにも、ここでご紹介するお話を参考にしてくださると幸いです。
低山の意外な遭難例はこちら
低山で遭難や事故の体験談5例。とっても危険な低山登山
目次
低山遭難の原因を探る。
低山の特徴
冒頭にお話ししたように、低山の登山は高山とは違い、沢登り、ハイキングレベルの登山、山菜採り、キノコ採り、写真撮影、トレイルランニング渓流釣り、時には子供たちのアウトドア活動など、様々な年齢層の人が様々な目的で入山します。
山が決して特別なものではなく、スポーツの一つ、レジャーの一つと捉えて、子供から高齢者まで門戸を開けているのが低山でしょう。
年齢も目的も様々ということは、それだけ遭難の原因も様々だということです。
一昔前は、山はパーティ(グループ)で入るものという認識も薄れるくらい、安全面でも認識が変化しました。
そしてその変化とともに、山での遭難も決して「登山者の遭難」だけでなく多様化してきているのです。
そして、その遭難件数は報道されていないだけで、高山よりも多いのはご存知でしょうか?
そこで、低山遭難の原因の一例をご紹介したいと思います。
低山遭難の原因の一例
低山への安心感
低い山=簡単な山。
こう思っている人は多いのではないでしょうか?
アルプス級の高山はゴールデンウィークでも残雪がある場所もあり、クサリ場があったり、ザイルが必要な場所もあったりと、ルートによっては上級者しか踏み込めない場所もたくさんある印象を持つ人は多いことでしょう。
難しいと考えると、準備、装備に余念がありませんし、入山する人の心に「緊張感」も生まれます。
その「緊張感」が行動を慎重にさせ、判断を適切にさせ、「行動」を迅速にするのだと思います。
しかし、低山では「安心感」が邪魔をし、それが準備、装備を簡略化させ、入山する人に「安心感」が行動を大胆に、安易にさせ、判断をとっさの判断にさせるのでしょう。
また、携帯のアンテナ設営状況が良くなり、「読図」「コンパス」の知識や訓練がなくとも、気軽にスマホにナビゲーションしてもらえるようになりました。
これも「安心」の一つです。
そして、何か不測の事態が起きたら「救援を携帯で呼ぶことができる」これも低山の「安心」の一つです。
しかしながら、その「安心」がある時は「過信」になり、携帯を使うことが出来ない状況では命取りになってしまうのです。
低山は安全、簡単、手軽という「安心感」が遭難件数を多くさせていることも事実なのです。
低山であっても自力で下山できない状況、これが「遭難」だと認識することが、遭難しない第一歩なのです。
自分は大丈夫という安心感の危険性
報道などで遭難ニュースに触れたり、地元の山での不明者報道があったりしても、低山の遭難はしっくりこない人は多いのではないでしょうか?
「へ~そうなんだ。たまたま運が悪かったのでは?」
「山に限らずどこでも起こりうることでしょう。」
「自分はこの人と違うから大丈夫」
そう思っている人も多いと思います。
でも、それはある意味、正常な反応といえるのかもしれません。
似たような目的、同年代など条件が同じで、また、何度も入っている山ならなおさら、「自分は大丈夫」という安心感が生まれることでしょう。
そのような反応、認知行動も一種の「正常性バイアス」なのです。
正常性バイアスの危険性
「正常性バイアス」という言葉をご存知でしょうか?
心理学用語なのですが、災害心理学、医療心理学、社会心理学などの分野で特に使われる言葉です。
大きな災害時に報道で評論家やアナウンサーが使っているのを聞いたことがあるかもしれません。
「正常性バイアス」は予期せぬ事態に遭遇した時などに、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりする認知バイアスのことです。
「バイアス」とは偏見、先入観という意味で、思わぬ事態に遭遇した時や多少の異常事態が起こった時でもそれを正常の範囲と捉え、心を平静に保とうと働かせます。
異常事態や不測の状況に脳が処理できなくなり心が過剰に反応して疲弊することを防ごうとする人の認知行動をさします。
災害現場や事故現場で正常性バイアスがはたらいたこと、つまり「自分たちは大丈夫」とはたらいたことで、避難や危険回避が遅れた事例が数多く報告されています。
それと同じことが低山での事故でも作用しているのを推測するのは難しくありません。
また、こうして事例を読まれていてもすでに「自分は大丈夫」と感じている段階で、正常性バイアスがはたらいていると言えるのです。
低山で遭難しないための対策
単独行は避ける
人のペースに影響を受けず、自分のペースで登るほうが楽で楽しいものです。
ましてや、低い山だったら自力で登って下りることができる山が多いので、好きな時に立ち止まって写真を撮ったり、記録を録ったり、山菜を採ったり・・・マイペースな単独行が好きな人はたくさんいます。
でも、低山であっても単独行は避けた方が不足の事態に対応しやすくなります。
事例でもあったように、ケース1では脳梗塞がありました。
仲間と行動していたから、すぐさま下山できて病院へ搬送されましたが、単独行だったらその他のケースの単独行と同じように、どこかで倒れて不明・・・となっていてもおかしくありません。
一人か数名かで、文字通り命運を分けたのです。
本格的な登山をしている人は、それだけ遭難事例にも遭遇し、中には仲間を亡くした人もいます。
そんな人達は、たとえ上級者であっても「単独行は避けるように」とアドバイスしてくれます。
年齢、山の高さやレベル問わず、単独行は避ける必要があるのです。
思い立って行動しない
SNSを見て急に思い立って登った、という人も最近は多いようです。
登山口近くのコンビニで購入した水とおにぎりだけをビニール袋に入れて登る・・・そんな持ち物だけで入山する人もいるくらいです。
もちろん服装も登山用ではなく、携帯バッテリーもサブも持たず、充電も不十分。
往復3時間くらいだからと、気軽に、中には午後に入山する人もいるようです。
SNS情報を鵜呑みにしないことは、何も登山に限ったことではありません。
信憑性はもちろん、書いた人の匿名性も情報の不確かさの原因です。
書いた本人が「山の上級者」でしたら歩くスピード、技術、スキル全てが上級者。3時間で往復できたとしても、SNSで見て入山した当人が同じレベルとは判断できないのです。
また、上級者は山で遭難しても、山にあるもので道具を作ったり、食料飲み物を確保したり、究極のサバイバル能力に長けている人も多いです。
それらの人と同じ軽装、装備を参考にするのは自殺行為です。
SNSなどで美しい山や体験談に心動かされても、思い立って入山しないようにしましょう。
準備をしっかりとする
登山といえば「登山届け」が重要ですが、低山では出さない人非常に多いようです。低山でも登山口に小さな木のポストがあって「登山届け」を出す場所があったりします。
もしもの時に、この登山届けがある、ないで運命を分けるといっても過言でない位大切なものです。
捜索隊は登山届けに書かれている情報を元に捜索ルートを決めます。
登山届けに書かれているルートを優先的に、そしてそのルートで迷いやすい、滑落しやすい場所があれば「そのルートを起点」に派生させて捜索。
書かれている装備も参考に、捜索スケジュールも対応するでしょう。
事例でもありましたが、行き慣れている山ほど「いつもの山に行ってくる」と言うだけで、実際に家族はどのルートを取ったのすらわからない・・という状況も多々あるのです。
登山届けまではいかなくても、自分の行動ルートのメモ書きを書くだけでも有益な情報となったはずです。
低山であっても、また、目的がトレイルランニング、写真撮影、山菜採り、ハイキング、登山といえない気軽なものであっても「準備」、つまり行動計画を家族や周囲に知らせておくこと、これが、入山前の大切で優先すべき「準備」になるのです。
それでも山で遭難したら?
準備万端でも、仲間と一緒に入山しても、山で遭難する可能性はあります。
一歩山に足を踏み入れると、そこはたとえ低くても自然の世界です。
気象状況、山の生物、植物、地形、我々の住んでいる場所とは違う世界があり、違うルールがあり、人間の存在は時には無力に感じることでしょう。
正常性バイアスは誰もが働かせてしまう恐れがありますが、不測の事態に遭遇したら、自然への恐怖を抑えつつ、畏敬の念を持って慎重に行動しましょう。
道に迷ったら、「低い山だし、とにかく下りたら道に出るだろう」と思わないでください。
道に迷ったら上に引き返して登りましょう。
体調に少しでも異変を感じたら?
すぐに下山するか、通りかかった他のグループの助けを借りましょう。
一緒に下りるだけでもいいのです。
肝心なのは、「倒れた瞬間に一人にならないこと」なのですから。
天気が崩れそうだったら?まず入山しない。
また入山していてもすぐに下山するようにしましょう。
山での天候悪化は低山でも様々な危険性があります。
滑って怪我をする、滑落、視界不良による道迷い、低体温症、落雷、土砂崩れ・・・まだまだたくさんあります。
低体温症とは?
低体温症は冬だけのものではありません。
汗をかくと濡れた衣服で体温を奪われ発症する時もあります。
夏であっても、雨や風によって発症する時もありますし、遭難して夜間ビバークする時も発症します。
事例で挙げたように、体調不良に繋がりますし、見当識を失い、正常な判断ができなくなる場合もあります。
低体温症を防ぐためには適切な服装と体を濡らさない、冷やさないことが重要です。
遭難捜索の難しさとテクノロジー
「遭難救助」と聞いてまず思い浮かぶのは、登山口から登る多くの山岳捜索隊、または、ヘリから救助される遭難者ではないでしょうか?
前述のように、携帯の電波状況がよくなったこともあり、気軽に救助依頼するという現代の山の問題点もあります。
しかし、無事に下山する、これが何よりも大切なことなのです。
捜索の難しさ
たとえ低山であっても、ルートや現在位置がわからなければ、山で遭難者を見つけるのは針山から針を一本探すのに等しいくらい、困難を極めます。
携帯のGPS機能が作動していればある程度の位置は特定可能です。
ただ、電池が無くなったり、携帯が使えない状態だったらそうはいきません。
高山や雪山では、位置を知らせるシステムや入山前の登山届け、最近ではアプリを使った会員制サービスなど、テクノロジーの進化と共に、遭難を未然に防ぐ、もしくは遭難時にサポートが増えました。
でも、低山ではこれらのツールやシステムを活用する人は少なく、それは前述にあげたように、気軽さと、安心感からによるものだと思います。
最新テクノロジー
携帯アプリで地図やコンパス代わりになるだけでなく、登山届けもアプリでできるのをご存知でしょうか?
「コンパス」は地図と一緒に使う昔ながらのコンパス(方位磁針)ではなく、「コンパス」というアプリで、携帯で登山届けを出すというものです。
この「コンパス」は登山届けを家族や友人と共有から、「下山通知」を知らせることで終了します。
警察などとも自治体や警察との連携も進んでいるようで万が一の事態にも迅速に対応できるようです。
また、アプリでルートを登録するので、同ルートや同山域に入山している他の人からの目撃情報なども収集してくれるという、優れたシステムです。
ナビゲーションシステムも兼ねていますし、アプリを入れたら無料で利用(一部機能有料)という優れたアプリです。
ただ、このアプリを使用するということは、意識が高い、事前準備を怠らないということなので、気軽に低山に入山する人がどれだけ利用するかは、これから期待されることと思います。
また「ヘリココ」という現在地を小さな発信機から知らせる会員制のシステムもあります。
電池切れも心配ないようで、これも優れたシステムですが、やはり、意識が高い人、高山遭難に備えて、という人が多いのかもしれません。
低山遭難の原因と対策のまとめ
低山は報道されていないだけで、遭難事故が非常に多いです。
入山する目的、年齢、意識、スキルが様々で、また気軽に登れる高さと距離ということもあって、遭難事故が多い原因となっているのでしょう。
携帯アプリやその他テクノロジーの進化によって、便利で安心なツールやシステムが開発されてきていますが、それも低山ではなかなか使われていない現状があります。
やはり、テクノロジーやシステムよりも、入山する私達が意識を変えて、山に入らなければいけないのでしょう。
ここでお話しした遭難の原因と対策は一例ですが、参考になさって、遭難の当事者にならないようにしていただけると幸いです。